DAISUKE Kita interview

北 大祐

「今シーズンこそ"わずかなズレ"を修正する」

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 今期B.A.S.S.オープン開幕戦のレイク・オキチョビを136位(219名中)で終えた北 大祐だが、彼が目をつけていたエリアは試合で50艇以上のボートが集結する一大コミュニティーホールと化した。そして、その50名の選手のなかには、この試合を3日間15尾計90lb.オーバー(≒40kg1尾の平均2700g)でぶっちぎったスコット・マーチンの姿もあった。

30mも離れていなかったので、やっていることは丸見えでした。スコット・マーチンがねらっていたのは、水深3ft.(≒0.9m)の産卵床にいる大型のメスで、リグはテキサス。水深は浅いのですが、オキチョビの水はタンニンウォーターやブラキッシュウォーターと呼ばれる茶褐色で、コーヒーやコーラのように黒い色がついているので水中が見えない。そこでスコット・マーチンは、シャローベッドのバスをライブシューティングしていました」

 このスコット・マーチンのねらいや釣り方が特殊だったかといえば、そんなことはまったくない。むしろこの時期のオキチョビで試合があれば、誰もが実践するパターンと言っていい。今大会も例外ではなかったが、そのなかでスコット・マーチンは、2位に20lb.(≒9kg)以上もの大差をつけて圧勝した。北は、その釣りっぷりを目の当たりにした。

「大枠では外していないけれど、最後の最後で"わずかなズレ"を修正しきれない。オープン参戦初年度から引きずっている課題を、この試合ではモロに露呈したかたちになってしまいました。プラや試合当日の条件から、魚は追えている(エリアやタイミングは合っている)のに、食わせきれない。具体的にいえば、プレッシャーがかかって食わせ方が変化する"試合中の魚"にアジャストできていないんです」

 続けて北は、「プレッシャーがかかった魚へのアジャストという点では、JBでいえばトップ50よりもマスターズで求められるモノにより近い」と言った。少人数制で開催フィールドも広いことが多いトップ50に対して、マスターズは出場選手数が多く、その割に手狭なフィールドで開催されることも珍しくない。"食わせの技術"だけに限っていえば、マスターズのトップ層は平均的なトップ50選手より上かもしれない。そんな高度な技術を求められる状況が、琵琶湖の3倍近い面積のオキチョビ湖上でくり広げられていたのである。219名のうち約50名が大きな的から小さな的へ絞り込み、そのド真ん中を射抜く精度を実現したスコット・マーチンが圧勝した。図式としては単純だが、北が言うところの"わずかなズレ"は生来、神経質なフロリダ種の気難しさと相まってオキチョビ戦の難易度を何倍にも跳ね上げたのである。

「プレッシャーがかかったときに魚の状態がどう変化するか、食わせのツボがどう変わるかは、試合が開催されるフィールドごとに試合で経験を積まないと見えてこないのかもしれません。だから無理、というのではありません。僕は試合に出ていますから、貴重な経験を重ねることができている。"わずかなズレ"を修正して、今シーズンこそピントを合わせる。それが今年の目標です。開幕戦からハズしましたが(苦笑)、気持ちが折れるとかはまったくありません。2024年も、自分にとって9試合中6試合が未体験のフィールドで開催される。こんなに贅沢なことはないので、試合とプラはもちろん、オフリミットも開催地に近いフィールドに1日でも長く浮いてバスフィッシングを探求したい。第2戦以降も日々全力でバスフィッシングと向き合います」

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2/1~3 B.A.S.S.オープン第1戦 レイク・オキチョビ結果 

001位 スコット・マーチン 90lb.06oz.

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136位 北 大祐      18lb.09oz.

156位 宮崎友輔      15lb.08oz.

185位 青木 唯      12lb.05oz.

192位 小池貴幸      10lb.10oz.

193位 藤田京弥      10lb.01oz.

YUI Aoki B.A.S.S. OPEN Debut match

青木 唯

「日本でプロとして食べていけるかもしれない......、いつの間にかそんなぬるい考えを持っていることに気づいたとき、自分をたたき直すためにもう一度ギリギリまで行くと、アメリカで戦うと、決めました」

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「自分をたたき直すために、ギリギリまで行く」

 レイク・オキチョビでのB.A.S.S.オープン開幕戦を1週間後に控え、青木唯にあらためて米国挑戦の動機を尋ねた。「自分をたたき直す」、そして「失敗したときの恐怖を肌で感じられる環境と試合に、常に身を置かなければ自分は終わってしまう」というのが答えだった。

 青木唯が、趣味だったバスフィッシングで生計を立てると決めたのは高校3年時。18歳の彼は、プロを目指す同世代のなかで大きく出遅れた存在でしかなかった。船舶免許もボートもない、運転免許も車もない、魚探の活かし方どころか基礎的な見方さえ知らなかったのである。

 しかし青木唯はその後、わずか3年でNBC初優勝、4年でJBマスターズ初優勝、そして5年でTOP50初優勝と日本のトーナメントステージを一気に駆け上がり、20172023年の7シーズンでJB10勝、ジャパンスーパーバスクラシック制覇、日本バスプロ選手権優勝、NBC30勝と、勝利とタイトルを山の如くうずたかく積み上げた。

 ところが、こうして「プロとして生計を立てる」という目標が達せられたとき、青木唯が抱いたのは「恐怖」だった。

「いつの間にか、自分がぬるくなっていることに気づきました。僕は、自分の成長に恐怖が必要なんです。深刻な話になってしまうので詳しくは言えませんけれど、バスプロになると決めてから、自分を追い込むためにいろいろなものを捨てたり、賭けたりしてやってきました。バスプロになりたい人はみんな練習します。けれど、練習して成功することに希望を持つだけでは、僕の場合は足りない。冷静に、失敗したときを想像して絶望や怖さを実感する、そういう環境こそが自分には必要なのに、気づいたらぬるい場所でぬるい考えでプロを続けようとしていました。自分をたたき直すために、もう一度ギリギリまで行く必要がある。初めてアメリカの試合に出たいと思いました」

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パスポートの紛失・再発行、

バスボートでガス欠・漂流

 かねてよりアメリカでプロになる未来をイメージしていたわけではなかった。

「フィッシングカレッジ時代に台湾へ行ったときパスポートを作っていました。けれど、もう二度と海外へ行くことはないだろうと思っていたので管理が雑だったというか......、たぶん引っ越したときだと思うんですけどなくしちゃっていたので、まずは再発行手続きからのスタートでした。まぁ、それくらいアメリカなんて頭になかったということですね」

 昨年末(202312月)の人生初渡米から1ヵ月で参戦環境を整えるなかで、初めて海外で車のハンドルを握り、広大なレイク・オキチョビで人生初のガス欠と人生初の夜の漂流を経験した。

「琵琶湖よりでかい湖(※約3倍)で夜に漂流するとか、真っ暗な湖面のそこらじゅうからワニの気配がするとか、そういうのは要らないキョウフなんですけど(笑)、まぁ死にはしない、何とかなるだろうと思ってました。もちろん焦ったは焦ったし、コワかったし、ヘルプを求めた方に迷惑もかけてしまいましたが、そうしてトラブっている自分をどこか面白がっている自分もいました」

 

"青木唯にしかできない釣り"で勝負する

 米南部フロリダに位置する「ビッグO」ことレイク・オキチョビといえば、視界の端に映るのは水平線か、ベジテーションに縁取られた地平線かのいずれかだ。広さの割に極めて浅いためフロッグやバズベイトが幅を利かせ、これらのルアーが試合で勝ちに絡むこともある。

「フロッグとか楽しいんだろうなァ、とは思います。バズやチャターも投げたいですね。でも今は、そういう釣りをする時間も意味もない。僕の試合には関係がない釣りなので"そういうタックル"をボートに積まずにスタートを迎えたいです。現実的にはストレージには入れておくと思うんですけど、試合中にフロッグやバズを投げることになったらその時点で負け確定。シャローでアメリカ人選手と張り合って勝てるはずがないし、わざわざアメリカに来てシャローをやるなら、べつに青木唯じゃなくていい。数は少なくていいからオフショアにでかい魚を見つけて、それを毎日、確実に5尾釣って、勝つ。それだけを9試合(オープン全試合)やり抜きます。

 自分にとって今シーズンの鬼門は、このオキチョビと、サンティークーパー(第3戦)、そしてミシシッピリバー(第8戦)、外す可能性があるとしたらこの3つだと考えています。目標は、オープン年間総合9位以内に入って、来年(2025年)のELITEシリーズ出場権を獲ること。鬼門の3戦以外はすべてトップ10に入ることと、そのうちひとつは勝つこと。できれば複数回、勝ちたいです」

 青木唯は今年で25歳になる。世間的には充分若くとも、昨年のオープンを勝ち上がって今シーズンからELITEに参戦するルーキーたちと比べると、若いとは言えない(同世代が中心で10代もいる)。言葉の壁、地の利、文化の違いや経済面など、現在の青木が背負っているディスアドバンテージは、高3のころと同等か、あるいはそれ以上とさえ言える。

 今からちょうど24時間後の日本時間21日(木曜)21時、青木唯が自ら望んだギリギリのB.A.S.S.オープン2024シーズンが開幕する。

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