【特集】
SVFコンパイルXとともに歩んだ20年。
その卓越のパフォーマンスを赤羽修弥プロが解説!
- 冬の琵琶湖合宿で感じたこと
2023年最初の特集は赤羽修弥プロによるタックル解説。といっても新製品にフォーカスした内容ではありません。同プロがこれまで、長い間使用してきたロッドのブランクに関して深掘りしました。
そのブランクとは、SVFコンパイルX。同プロがDAIWAと契約する以前から括目していた素材で、それをまとったロッドとの出会いから今日に至るまでを振り返っていただきました。
SVFコンパイルXとは、カーボン繊維とレジンと言われる繊維をつなぎ留めておく接着剤で構成されるカーボンシートのレジン(樹脂)を徹底的に削減することにより、カーボンシートの全体積に対するカーボン繊維体積を高めたシートで作られた"超筋肉質ブランク"のこと。レジンを削いでカーボン繊維が密入されたブランクは、いわばトップアスリートの鍛え抜かれた筋肉。感度に優れていることはもちろん、優れた反発力を持ち、飛距離やフッキング性能のアップに直結します。
さて、この取材を行ったのは2022年12月、赤羽プロが琵琶湖での10日間にわたる「合宿」を終えた直後でした。赤羽プロはこうして毎年、夏と冬に琵琶湖へ遠征しています。その目的は「純粋に幅広い釣りを身に付けるため」だそうです。霞ヶ浦を本拠にトーナメント活動を展開している同プロですが「琵琶湖での釣りは大いに勉強になります。魚の大きさも違いますし、魚探の使い方なども学ぶところが多い。ウイードや深いところの釣りも学べますし、無駄になることは一切ありません。霞ヶ浦の釣りにも活きてきます」と語っていました。
こうした地道な努力が前人未到のBasserオールスタークラシック3連覇や2021年のKing of Kingsの圧勝に結びついたことは間違いありません。普通にやっていては大仕事は出来ないからです。
琵琶湖話では今回の特集のキモに触れるような一瞬もありました。
「北湖で釣りをしていて感じたことがあるんですが、例えば今流行の高比重ノーシンカーなどを深い場所で使いますよね。ラインを沈めて。そうすると当然、アタリは感じにくくなります。ラインをたくさん出していますからね。それに日々変わる湖流の影響も受けます。でもSVFコンパイルXであれば、大きなアドバンテージが得られる。そんな可能性を感じました。アタリと言うよりは『何かちょっとした違和感』を捉えられるし、アワセに関しても、SVFコンパイルXなら、巻きアワセでもスプリングバックする力が他の材料より強いのでしっかりとした掛け感が手元に残る! それが気持ち良くてクセになると思います」
と、いきなり話の真髄に触れるコメントが出てきてしまいましたが、それは後で深掘りさせていただくとして、まずは赤羽プロの今年の抱負を伺ってみました。
- 今年も厳しい。だからSVFコンパイルXの真価が発揮される
「今年も霞ヶ浦、北浦の釣りは厳しいでしょうね。良い材料は一つも見当たらない。でも、なんとかして魚を釣らなければならない。そんな状況が予想されますから、少ないバイトをいかに得るか、それがキモになるでしょうね。当然、タックルの力を借りなければならない面も少なくありません」
今年も厳しい環境が予想される霞ヶ浦、北浦のバスフィッシング。それだけにタックルの力がモノをいうでしょうと語る赤羽プロ
赤羽プロはこう語っていました。続けて......
「釣りはより繊細なものが要求されますから、タックル全体の軽さ、感度の良さがキーになります。とくに微妙なボトムの変化、微かなバイトを感知できるロッドの能力が要求される上に、風や雨など悪天候の中でも使い続けられるタックルが決め手になるような気がします」
赤羽プロはオールラウンドに釣りをこなしますが、強いて言えば軽めのリグを使っての繊細な撃ちモノに定評があります。昨今の厳しい状況を考慮すれば当然ですが、とくにトーナメントという、なんとか結果を出さなければならない世界で勝負している以上、少ないバイトを拾っていく釣りの重要性は高くなります。
- SVFコンパイルXとの出会い
赤羽プロはとくにロッドに対して、昔から非常に強いこだわりを持っていました。とくに「感度」に関しては人一倍神経をとがらせていました。
約20年前、そんな赤羽プロを驚かせたことがありました。
それは、'01バトラーリミテッドのとの出会い。2001年、赤羽プロはSVFコンパイルXを身にまとった'01バトラーリミテッドのバックファイヤー(BA-LTD 701MLRB-01)を手にして、唸ったそうです。
「これは凄い、別格だ! と衝撃を受けました。あの軽さと感度は異次元でした。それはバトラーリミテッド全体にいえることでしたが、とくに長めのロッドでは顕著でした。当時の7フィートとしては本当に驚異的でした」
当時、赤羽プロはロッド契約に関してはフリーだったので、様々なロッドを手にする機会があり、そんな中で'01バトラーリミテッドを使った時の印象がそうしたものでした。
「ですが、あまりにも繊細で尖ったロッドだったので、信頼性の面で少し怖い部分があったことも確かです」
とも付け加えてくれました。そして赤羽プロはバトラーリミテッドを使い始めた時代背景を振り返ってくれました。
「当時は生物多様性ブームもあり各地で駆除が盛んに行われ魚の個体数が激減しつつあった。その頃からバス釣りが難しくなって、より繊細さが要求されるようになりました。軽いルアーを使って細かな誘いを加えて釣る釣りが必要になったのです。軽いネイルシンカーをワームに入れたりしてね。そうなるとロッドに軽さと感度が求められるようになりました。'01バトラーリミテッドはそんな時代の要請を反映して生まれたのでしょう。
ロッドだけではありません。当時、リベルトピクシーというベイトキャスティングリールが誕生しました。ただ、初代はギア比が低かったのでバス釣りの撃ちモノには向いていませんでした。それから数年後それを使えるようにすれば......、という要請からピクシーが改良され撃ちモノに使えるようになったのです。つまりベイトフィネスの走りです。こうしたタックルが生まれて来たのも必然といえます。
私がDAIWAさんと契約させてもらったのは、2006年ちょうどその頃です。以来、たくさんのロッド、リールを使わせてもらってきました」
赤羽プロは当時をこう振り返ってくれました。
- スティーズ・'11スカイレイを生んだオールスター3連覇
そんな赤羽プロとSVFコンパイルXがシンクロした一番大きなイベントがBasserオールスタークラシックでした。そう、赤羽プロが前人未到の3連覇を成し遂げたトーナメントです。2008年から2010年までの3年間でした。
初年度こそ08ハスラー701HMHXB-XTQによるテキサスリグのシャローカバー撃ちがウイニングメソッドでしたが、2009年と2010年はSVFコンパイルXが炸裂したのです。
2009年、第24回オールスターで赤羽プロが使用したのはSVFコンパイルX塔載の'03バトラーリミテッド・ハインド(BA-LTD 6311MLRB-03)(以下ハインド)。
「生産中止になっていたロッドだったんですが、ネコリグの操作性に絶妙なものがあったので敢えて使いました。本来はワーム竿ではなく小型プラグなどの巻きモノに適したロッドとしてリリースされましたが、ベイトフィネス的に使っても投げやすく、そして抜群の感度を持っている点を重視したのです」
この選択がズバリとハマり、桜川で2日間計10尾のフルリミットを達成、堂々の連続優勝を果たしました。
このハインドが後のSTEEZ'11スカイレイSTZ 631MLFB-SVにつながりました。というのも......
「ハインドは予想通りのパフォーマンスを演じてくれましたが、小型プラッギング用の巻きモノロッドだったので、ワームを使って掛ける釣りには『いまひとつ』という印象があったのです」
そしてスカイレイが着手され、翌2010年、赤羽プロはスカイレイのプロトタイプを駆使して、ついにオールスター3連覇を遂げたのです。
スカイレイのプロトを駆使してオールスター3連覇を成し遂げた赤羽プロ
当時のBasser誌には赤羽プロの3連覇が以下のように紹介されています。
「初日、赤羽選手は田村のアシでテキサスリグで最初の魚を獲り、その後は桜川に入りリミットメイク。3,570gというウエイトを固めて4位で折り返しました。
最終日は朝から桜川に入り、粒ぞろいの魚を5本揃えて4,920gという全選手を通じて2日間トップのウエイトをマークして大逆転優勝を果たしたのです。2日間ともリミットを持ち込んだのは赤羽選手のみ。そんな意味では完全優勝といっても過言ではない凄まじい勝ち方だったといえます。
その10尾の魚ですが、初日の1尾目こそテキサスリグで釣られたものですが、残りの9本はすべてストレートワームのネコリグによるもの。赤羽選手はプロトタイプのロッドを使用しましたが、それが実にいい仕事をしてくれたようです。
2日目の最初の魚は中流域の沈み物で食わせた魚。ところがその沈み物にラインが巻かれてしまい苦戦。しかしロッドを曲げた状態に保っていると、トルクがバスを引き出してくれました。その時、赤羽選手はこう呟いたそうです。
「ロッドに助けてもらった」。
そのロッドこそ現在開発中のスティーズの6'3"。
「バイトの違いもわかる」という鋭敏な感度と扱いやすさを兼備しており「ネコリグマスター」と呼ぶに相応しい画期的新製品といえます。」引用終わり。
この記述は2009年のオールスターに使用したハインドから生まれた'11スカイレイが3連覇を助けたという意味であり、SVFコンパイルXがいかに赤羽プロの偉業にコミットしたのか、よく理解できるエピソードです。
オールスター3連覇という記録は前人未到にして、恐らく絶後でしょう
ちなみにオールスタークラシックはこの翌年から会場が千葉県香取市の「水の郷さわら」に変わりました。2011年の東日本大震災の影響で茨城県土浦市の土浦新港が被災したからです。
- SVFコンパイルXの進化は止まらない
こうしてSVFコンパイルXの持ち味を最大に生かした'11スカイレイがオールスターというトーナメントを足掛かりにして誕生したわけですが、話はそこで終りません。
2021年冬に行われた、オールスター歴代優勝者によるKing of Kingsでも'11スカイレイの後継機種'22スカイレイ68が活躍したのです。
King of Kingsにおける赤羽プロの勝利はまさに圧勝といえるものでした。2日間6本のリミットを揃えたのは同プロただ一人。2位の選手との差は4kg以上もありました。おまけに2113gという破格のビッグフィッシュも獲ったのです。
K o Kでの圧勝劇はライブ中継されましたので、ご覧になった方も多いでしょう。まだ記憶に新しい出来事です
この勝利に貢献したのが'11スカイレイの進化版ともいえる'22スカイレイ68のプロトタイプ。
「6'8"になって長さのアドバンテージが付加されたにもかかわらず、軽さ、感度は維持している。操作性もまったく失われていない。これは技術力の賜物以外何物でもありません」
余談ですが、このロッドは感度が高すぎるため、使っていてドキッとすることがあると赤羽プロは言います。
「ネコリグなどを撃っていて、ちょっと硬いところに当たると『オッ!食った!?』と錯覚することがあります。これはもう慣れるしかないんですが、やっぱり感度はいいに越したことはありません。アタリを聞いてみれば何とかなる話ですから」
写真下がハインドBA-LTD 631MLRB-03、中がSTEEZ '11スカイレイSTZ 631MLFB-SV、上が現行の'22スカイレイ68 C68ML-SV
ガイドの大きさの違いを見ても進化の過程が理解できます
- SVFコンパイルXは軽さと感度だけではない!
このKing of Kingsの勝利を例に挙げて、赤羽プロはSVFコンパイルXの「もう一つの」能力を説明してくれました。
「確かにSVFコンパイルXを身にまとったロッドは軽さと感度に優れていますが、ロッドに求められる機能はそれだけではありません。投げて、掛けて、取り込む。この一連の所作を誰が使ってもできるのがSVFコンパイルXを身に纏ったロッドです。まず投げるという行為では、軽いルアーをピッチングするだけではなく、キャスティングすることももちろんあります。その場合、ロッドのテーパーが大事になるのですが、ロッドエンジニアがブランクの性質を熟知しているので、投げやすいテーパーをデザインでき、さらにそこからしっかり魚を掛けられてランディングできるロッドの作り込みが完成されています。SVFコンパイルXと、このカーボンシートを熟知したエンジニアの両方が揃ってこそ、真に素晴らしいロッドができるのです」
そして赤羽プロはKing of Kingsにおけるビッグフィッシュを獲った時の模様を再現してくれました。
「初日、比較的隙間が大きい石積みを攻めていた時、バイトを感じました。石に擦られないようにゆっくり力強くスイープにアワせました。するとしっかり掛かってくれました。最初はキャットフィッシュかと思わせるほどの重量感でした。でも獲ることができました。SVFコンパイルXの柔らかいながらもリフトするリフティングパワーのおかげです。
というのも、あの時のように石の隙間でバスを掛けた場合、慌てて強引に引っ張っては獲れないからです。腕力を使って無理やり引っ張ると魚はビックリして余計に奥へ奥へ潜って行こうとします。そうするとラインが石に擦れてブレイクの危険性が増します。ではどうすればいいかというと、そのままロッドを立てて我慢するのです。そうすると魚はロッドのリフティングパワーに負けて出てきてくれます。
これもベリーからバットにかけての竿が曲がってスプリングバックするリフティングパワーがあるからこそ。それも製竿技術の粋を集めて作られたSVFコンパイルXの為せる秘めた技なのです」
もう一つ赤羽プロが力説していたのが信頼性。バトラーリミテッドの時は若干心配な面もあると言っていましたが「それもクリアされました。SVFコンパイルXのロッドを使って以来、普通に釣りをしていて1本も折っていません。不安なく使えています」
赤羽プロのキャリアを輝かせた歴代のロッドはトーナメントという厳しい環境のもとで鍛えあげられ、いずれも一時代を築き上げました
そしてSVFコンパイルXはジグなどを使った釣りでも軽くて使いやすく、汎用性にも富んでいると補足してくれました。
「DAIWAプロスタッフに多くいると言われている「SVFコンパイルX覚醒者の一人」ともいえる赤羽修弥プロの解説は実に分かりやすかったですね。これからも同プロの活躍、そして今後のSVFコンパイルXそしてDAIWAのロッドの進化発展にご注目ください。